2017 December 27 S町

2017 December 27 S町

2017 December 27 S町

毎日決まった時間に電車は人で充満する。
行先の決まっている人、
行先のあてのない人を乗せ、
ダイヤどうりに正確に発車して行く。
しばしば事故の情報(その多くは人身事故だ)
が電光掲示板に流れ騒めきはあるが、
何事もなかったように、
再び正しいダイヤに調整しつつ発車してゆく。
一瞬でホームは無人になる。

2017 November 22 K町

2017 November 22 K町

2017 November 22 K町

温室の中では、
遠い旅をしてきた植物たちが、
まどろみながら螺旋状に成長し続けている。
外界から隔絶され、
生暖かい空気の中で花粉や胞子が飛び交う、
閉鎖空間である熱帯植物園のドームでは、
尾崎翠の「第7官界彷徨」の中の苔たちと同じように、
成長する過程の中で植物同士も恋をし、
未知の言葉で語り合っているのかもしれない。

2017 October 15 S町

2017 October 15 S町

2017 October 15 S町

長い時間をかけて形成されてきた森は、
それ自体が巨大な生命体だ。
森の中に足を踏み入れて進んで行くうちに、
体を取り巻いていた空気は、
湿った土や樹々、草花から発散される粒子と一体となって、
その生命体にコントロールされたものへと変わり、
次第に体を侵食し始め、
嗅覚や視覚などの様々な感覚器官にまで変化が及び始める。

2017 September 20 S町

2017 September 20 S町

2017 September 20 S町

気がつくと空が高くなっている。
気がつくと夕暮れが早くなっている。
いつまでも真夏のような暑さが続いていたので、
目の前に秋が来ているのに気がつくのが遅くなっていた。
森の中を歩くとヒヤリとした冷気が体を包み、
確実に季節の訪れを伝えている。
夏の終わりはいつも寂しい。
照りつける太陽が、
いつも漲る生命を感じさせるからなのだろうか。
人類が手にした人工の太陽は死と恐怖しか与えず、
いまだにそれを手なずける事が出来ないままだ。

2017 August 21 K町

2017 August 21 K町

2017 August 21 K町

真昼の太陽は、
アスファルトを眩いほどに発光させ、
その光に負けない夜よりも暗い影を伴って来る。
人工の光は、
夜の暗闇を暴き出し、
隠れているものたちにひっそりと影を焼き付ける。
夜と昼とは逆転する。

2017 June 25 K町

2017 June 25 K町

2017 June 17 K町

まばゆいほどの積乱雲は、
黒雲と激しい雨を伴ってくる。
陽の光が消えひやりとした風が吹き、
風景は一変し雨脚が地面を打つ。
その数分後には、
何事もなかったように再び太陽が顔を出し、
黒々とした影を焼き付ける。夏は光の季節であると同時に、
影の季節でもあるのだ。

2017 May 25 Y町

2017 May 25 Y町

2017 May 25 Y町

長く人が住んでいた家のなかには、
たくさんの記憶が薄い膜の様になり、
何層にも重なり合って部屋の中を埋め尽くしている。
足を踏み入れ進む度に膜が揺れ動き、
記憶の微粒子が幽かな匂いとともにが立ち上り、
やがて、
形をとり始め始める。

2017 April 28 Y町

2017 April 28 Y町

2017 April 28 Y町

家は、
住人が去っても、
そこに住んだ人の気配は残っている。
長い年月を経てきた家であればあるほど、
多くの人の残像が残っていることになる。
しんと静まり返った人気のない部屋が、
窓から差し込む光の角度や、
肌に触れる風の動きが、
残像を生き生きと蘇らせるのか、
家中がざわざわとし始める瞬間がある。

2017March 22 O町

2017 March 22

2017 March 22 O町

町のきらびやかな表皮をめくり、
細い路地に足を踏み入れると、
町は全く違った貌となって存在し始める。
強い陽光が降り注ぎながら、
闇によって支配され、
言葉や文字はその体系を失い、
体温の無い生き物たちが行き交う。

2017 February 20 O町

2017 February 20 O町

2017 February 20 O町

青白い光をスパークさせながら町の中を都電がのろのろと走り、
町は電線で覆われ、
電線のない町などなかった時代から、
少しづつだが電線のない町が増殖中だ。
そんな町を歩くと空は広く広がり、
町並みも少しだけ綺麗になったように感じる。
と同時に町は漂白され、
少しよそよそしくなったようにも感じる。

2016 December 23 K町

2016 December 23 K町

2016 December 23 K町

真冬が直前に迫ったこの季節、
草や木々は葉が落ちるまでの短い時間、
各々が好みのの色に化粧をして山々を彩り、
北風の中で葉を落とし、
ごつごつとした筋肉質の節や、
幾つもに枝分かれした木々の先端の繊細な美しさが露わになる。
枝の先の先まで見通せるようになったことで、
みどりの葉に包まれ定かでなかった、
木々の樹形がくっきりと見えるようになる。
太陽を追い求めて手を差し伸べているような、
裸の木々の間を歩くことは
冬の散歩の大きな楽しみだ。

2016 November 15 O町

2016 November 15 O町

2016 November 15 O町

多くの人が行き交うターミナルの
絶え間ない離着陸の轟音がゆっくりと遠のいて行き、
音のない空間に一人で立っているような
感覚に襲われることがある。
出会いと別れの錯綜するこの場所で、
生命を持つものすべては別れという
最終地点へと向かっているのだと、
ふと思うからなのだろうか。

2016 October 25 H町

2016 October 25 H町

2016 October 25 H町

花が咲いているのを見るのは嫌いではないが、
観光のためだけに,
単一の花が広大な場所に人為的に咲いているのは、
なぜか、うら寂しく、
咲いている花もうすよごれたよう見える。
はかなげな茎がそうさせるのか、
繊細な花の揺れ具合がそうさせるのか、
コスモスだけはなぜかそんな気持ちになることはない。
自然な形の群落はもちろんだが、
人為的な大群落でも、
同じように胸の内でなにかが揺れるような気持ちになる。

2016 September 8 K町

2016 September 8 K町

2016 September 8 K町

来年の個展に向けてオブジェの製作中なのだが、
一向に創造の翼が背中から生えてこない日がある。
うらやましいことに、
空を行く雲は一瞬も休むことなく創造の翼を広げ、
絶え間ない変化を続けながら作品を生み出し続け、
時にはそれに光と風が加わり、
信じられないような美しさの作品を空一面に広げる。
しかも、
惜しげもなくそれを消し去り、
次なる新たな創造の場へと移って行くのだ。

2016 August 28 M町

2016 August 28 M町

2016 August 28 M町

美しい蓮の花だが、
これが世界最古の種から発芽した大賀ハスだということを知ると、
途端に見る目が変わってしまった。
知らなければ、蓮が咲いているなと通り過ぎていたかも知れないのに、
フームなどとつぶやいて、途端に同じ花が全く違って見えはじめ、
立ち止まっている私がいる。
自分の対峙している世界を認識するとき、
いかに情報に左右されやすく、
また、自分自身の下す判断が、曖昧で不確かなのかをまざまざと感じた瞬間でした。

2016 July 29 G町

2016 July 29 G町

2016 July 29 G町

強い陽射しで町が白く燃え上がっている。
いつ梅雨が終わったのかわからないまま夏が来るのではなく、
回り舞台がくるりと回るように鮮やかに夏が出現した。
20代の頃、夏になると仲間といつも式根島に行っていた。
式根島がまだナンパの島などと呼ばれる以前のことだ。
島の子供達が島で一番汚い海辺だという場所もびっくりするくらい澄んでいて、小さなコバルト色の魚が泳いでいた。
水着を持って海に行くこともなくなったが、
夏という季節はいつも心を浮き立たせ、
行動に駆り立てるような気持ちにさせるものがある。

2016 June 23 T町

2016 June 23 T町

2016 June 23 T町

虫たちはアート作品を作ろうとして葉をかじるわけではないのだが、
奇妙に虫食いの跡は美しい。
Aiは産業の分野だけではなく芸術の分野での取り組みも始まっているが、Aiはこれを見て美しいと思うのだろうか。
絵画の分野ではレンブラントの技法を学習し、
レンブラントが描いたとしか見えないような肖像画を描くまでになり、その画像も紹介されている。
すでに高度な頭脳が組み込まれている現在のカメラは、Aiと極めて親和性が高いと思うのだが、
撮りたいと思ってシャッターを押す心の動きをどのように解決し、どんな写真を撮るのだろう。

2016 May 18 K町

2016 May 18 K町

2016 May 18 K町

瀟洒な家が立ち並び、車寄せにはヨーロッパ車ばかり並んでいる住宅地の一角に、
ぽっかりと穴が開いたように、夏草に覆われた土地がある。
駅までは徒歩で5分、急行で都心まで30分足らずで着く。
今時、なかなか見つからない物件だ。
石段を見れば造成してかなりの時間が経っているらしい。
原稿用紙数十枚分以上ののドラマがあるのではないだろうかと、
風に吹かれながら考えた。

2016 April 17 S町

2016 April 17 S町

2016 April 17 S町

桜の開花予想というのはどうも何か変な気がする。
桜の開花時期は桜の種類によってそれぞれ異なっているので、
本来は開花予想など意味がないのだが、
日本全国で桜といえば染井吉野となってしまったからなのだろう。
江戸期には数百を超える桜の種類があったらしいが、
染井吉野の登場で桜地図が一変したらしい。
桜並木も一種類だけではなく、
何種類もの桜を植えれば長い期間桜を楽しめるし、
人ばかりで大混雑の桜見物も無くなると思うのだがどうだろう。
そうなるとぱっと咲いてぱっと散るというのではなくなるので、
つまらないと思う人も出てくるのだろうか。
一面の芝桜、一面の菜の花、一面のチューリップなど、
花の名所が数多くあるが、
へそ曲がりの僕はそのような光景は人工的で美しいとは思わないのだ。
そういえば染井吉野もクローンという人工的な桜なのだなぁ。

2016 March 20 A町

2016 March 20 A町

2016 March 20 A町

チェスや将棋が人工頭脳に負け、
碁の世界だけは聖域を守れると思われていたが、
ついに人工頭脳の勝利に終わった。
人工頭脳は自分で学習することによって、
人間の心の領域にまでも踏み込もうとしているのかもしれない。
最新の技術の粋を集め豊かな表情で言葉を操る、
人間そっくりの人型ロボットを作っている人たちがいる。
良く出来てはいるが一目で人間ではないと判る。
3Dではなく2Dにしか恋愛感情を持たないという、
若者たちがふえているという。
現実の生身の人間ではなく、
アニメーションやコミックなどの平面世界の登城人物にしか、
感情が揺り動かされないらしい。
彼らにとって人間そっくりだが人間ではない、
コンピューター制御のロボットはどのように見えているのだろう。

2016 February 17 S町

2016 February 17 S町

2016 February 17 S 町

みなれた町の風景が突然よそよそしくなり、
現実のものではないように感じられる瞬間がある。
夢の中の風景を見ているような感じなのだが、
夢の中で見る風景は
現実以上の存在感と確かな手触りがあるのだ。
夢の中では夢という確かな現実を体験していて、
現実の世界で風景を見ているときには、
不確かな感覚で対峙しているからなのだろうか。

2016 January N町

2016 January 25 N町

2015 December 25 S町

2015 December 25 S町

2015 Desember 25 S町

旧い記憶を消し去って、
街が新しくなってゆく。
国もまた旧い記憶を消し去り、
軋みながらその形を変えようとしている。
テレビは空疎な笑いで充満する番組をたれ流しながら、
自分の言葉を持たない人を大量に生産し続けている。

2015 November 25 K町

2015 November 25 K町

2015 November 25 K町

夢の中で体験することは、
目が覚めれば夢なのかと思うのだけれど、
夢を見ているときには夢ではなく、
それはその時点では現実ということになり、
誰でも気がつかずに幾つかの人生を生きているということになる。
ほとんどの夢は、目をさますとたちまち消えてしまうが、
いつまでも細部まではっきりと覚えている夢がある。
目がさめると、
なまなましい触感が残っていることがあるのはそんな時だ。

2015 October 25 O町

2012 October 25 O町

2015 October 25 O町

19世紀後半から20世紀にかけての、
テクノロジーの進歩によって生み出された世界に人々は魅了され、
誰もが光り輝く未来を夢見ていた。
21世紀の今、
飛躍的に進化を遂げたテクノロジーによって開かれる世界は、
かってのような薔薇色の未来を提示できるのだろうか。

2015 September 22 S町

2015 September 22 S町

2015 September 22 S町

しばらく行っていない町に足を踏み入れると、
びっくりするくらい町が変わっていることがある。
綺麗にはなっているのだが、何か町の匂いが無くなり、
すっかり漂白されてしまったような気になる。
伊丹監督は画面に締まりがない時に電線を張り巡らしたというが、
電線が町の匂いの一つになっていたのかもしれない。

2015 August 29 S町

2015 August 29 S町

2015 August 29 S町

町を歩く時、
カメラを持っていると
見えなくなるものがある。町を歩く時、
カメラを持っていると
見えてくるものもある。

2015 July 4 S町

2015 July 4 S町

2015 July 4 S町

千駄木に団子坂という名前の坂がある。
明智探偵が初めて登場する、
江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」のD坂とは、
この団子坂のことだ。
具体的な坂の名前が、
抽象的なアルファベットの置き換えられただけで、
ミステリアスな空気が漂ってくる。
アルファベットには、
なぜか、そんな魔力が備わっているのかもしれない。

2015 June 21 N町

2015 June 21 N町

2015 June 21 N町

デジタルカメラで撮るということに、
依然として微妙な違和感がある。
シャッターを切り、
フィルムという実体に定着する撮影作業に対して、
情報として記録するという、
実体のない形で撮影が終了することに、
肉体が違和感を感じているからなのだろうか。

2015 May 26 Z町

2015 May 26 Z町

2015 May 26 Z町

赤く錆びた煙突の場所が頭の隅に残っているのか、
又しても煙突のようなものにシャッターをおしてしまった。
自作のオブジェを撮るという、
作り上げた写真を撮り続けているので、
ふらりふらりと歩いて写真を撮るという行為は新鮮だ。

2015 May 23 O町

1ヶ月前にここを通った時は、
ガラスの向こうに奇妙な旗や標識に、
何に使うかわからない、
不思議な形のガラス器具などが透けて見えていて、
その奥では
コモン君が鉢植えのデンドロカカリヤになりかけている、
安部公房の描く世界が目の前に現れたような場所だった。
カメラを持って再び訪ねた時は、
ガラスの向こうには何もなく、
錆びた煙突があるだけの、
何処にでもあるような風景があるだけだった。

2015 May 23 O町

2015 May 23 O町

2015 May 3

2015 May 3

2015 May 3

目に見える世界を写し取るということが、
写真を撮るという作業だが、
同時に目に見えない世界を写し取るということが、
写真表現という作業になる。
デジタルの進化は、
フィルムの時代には考えられなかった、
超高感度が可能になり、
目に見えない世界までがはっきりと写る、
新しい視覚の時代が到来した。
どんな高感度になっても、
見えない世界を写し取るということが、
写真表現だということに変わりはない.

2015 March 17 K町

2015 March 17 K町

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