2024 April 18 M町

どうやら目だけで物を見ているわけでは無いらしい。
何か気になってスマートフォンンで撮った写真を拡大して見ると、
1cmにも満たない小さな花が一面に写っていた。
体のどこかが反応してシャッターを押させたのだろう。
翌日カメラを持って撮り直しに行った。
天候の急変する速度は早い。
青空の中に屹立して居た積乱雲は、
たちまち黒雲の塊になって行き、
雷鳴が轟き鉛筆ほどの太さの雨がやってくるのも、
そう遅い時間では無いだろう。
街を歩き目に入るものは、
全て何かを暗示している。
街はそんなものに満ち溢れているのだが、
日々の生活という時間を、
消費することに多くの労力が費やされ、
暗示に気付く人は少ない。
暗示を受け止められるセンサーの感度が高い人だけが、
ひっそりと街からの暗示を受け取る。
日差しという化粧が、
日々街の光景を新しくする。
見慣れた街が訪れる度に違う魔法がかけられ、
二度と戻ってくることの無い、
新しい顔で目の前に現れる。
市の中心部に廃墟となったマーケットがある。
長い年月が経っているのだろうけれど、
まだ濃厚に人の匂いが残ったままだ。
人口が減りつつあるどこの地方都市でも、
こんな光景が増殖し続けているのだろう。
時間と言う名のアーティストは、
街のあちこちに出没し、
その作品は時間と言う友達と一緒に制作され、
街を歩いていると通り過ぎてしまうような片隅に、
ひっそりと飾られている。
見事な自然を残している公園も、
いつもなら紅葉の始まっている木々もあるのだが、
見当たらない。
台風と激しい雨で荒れ果てていた。
地球の気温が上昇していることを現している現象が、
あちこちに見られる。
近くの路地にも、
熱帯植物だと思われる紫色の草が繁茂していた。
影が長くなってきた。
薔薇園の花達も少しづつ葉を落とし始めている。
低くなった太陽は、
木々に隠れた庭園の奥まで差し込んで、
ひっそりと閉じたドアにまで忍び込んでいる。
太陽が水平線近くに落ちてくると、
オレンジとパープルの混じり合った光が一面に漂い始め、
シグナルは赤く点灯したままで警告を発し続け、
閉じられていた扉が静かに開く音があちこちでし、
迷宮への入り口がぽっかりと黒い口を開ける。
太陽が水平線近くに落ちてくると、
オレンジとパープルの混じり合った光が一面に漂い始め、
シグナルは赤く点灯したままで警告を発し続け、
閉じられていた扉が静かに開く音があちこちでし、
迷宮への入り口がぽっかりと黒い口を開ける。
中国料理の店、チェーン店、風俗店などが、
それぞれのテリトリーを死守するような形ではなく、
何か投げやりな形で、
それらの店が雑然と混在している。
たくさんの人たちが行き交い、
賑わっているのだが、
奇妙な倦怠感が漂い、
無国籍な感じを受けるのは、
ここが都内有数の中華街になろうとしていることに、
関係しているのかもしれない。
電車が走り、
幹線道路が貫通する街にこんな風景の瞬間がある。
喧騒も消え去り、
空気の匂いさえも違っているかのようだ。
数日後に訪れてみると、
花の姿は変わり、
当然、陽のあたりかたも強さも違う。
夢のような風景は消滅していた。
花が咲き始める頃、
すでに日差しは柔らかくなっているが、
その底にはまだ鋭い刃が潜んでいる。
そんな空気を写しとりたいと思ってシャッターを切るのだが、
旺盛な花の命に負けてしまう。
よく知っている街が急に姿を変え、
見たことのない街に見える瞬間がある。
人の動き方なのか、
太陽の位置なのか、
頭の中の回転軸がかわったためなのかわからない。
しかし、
確かに言えることは、
その幻想の街の手触りの方が、
現実の街のそれよりも現実味を帯び、
濃厚だということだ。
枯野を歩くと、
乾ききった草や落ちた小枝が粉々に砕ける。
生き物たちはひっそりと地中に身を潜め、
冬という禁欲的な季節は、
食欲も減退させるのか、
蜘蛛はいつ来るとも知れぬ獲物を待っている。
スコットランドの南西部にアラン島がある。
たった一つある蒸留所では、
アランモルトというシングルモルトのウイスキーだけを作っている。
57.1%という強い酒だが、
口に含むと、滑らかに喉の底へと転がってゆく。
飲み干したグラスを嗅ぐと、
蜂蜜のような甘い香りと、
草の匂いがした。
街の匂いは、
日が傾きかけると急に濃くなってくる。
記憶を頼りに歩いていると、
いつの間にか元の場所に戻っている時がある。
検索すればたちどころに地図が表記され、
たちまち目的地に着くのだが、
そうやって着いた目的地はなぜか色褪せている。
再び記憶を呼び覚まし歩き始めると、
数十年前によく行った店が突然現れる。
たちどころに脳内の地図は編集し直され、
新しい地図が表示される。
2020が掛け声のように街が沸騰している。
馴染みのビルが消滅し、
歩き慣れたれた道が突然迷路に変わる。
アートの拠点となっていた、
美しい佇まいの建物も数多く消滅した。
再開発の名の下に街は、
仮面を被ったように同じ顔になってゆく。
再開発の名の下に、
日本中がのっぺらぼうな一つの顔になろうとしている。
駅を降りて改札を抜けると、
そこは地上から2階か3階高くなっているらしく、
何方向へかデッキが伸びていて、
街が見下ろせるようになっている。
どこへ行っても駅前の風景はこんな様子だ。
町工場の密集するあたりで見つけたこんな風景も、
消滅するのは時間の問題だろう。
深い森の中ではない。
玄関を出てから数分の場所だ。
幹線の道路脇だ。
急な崖になっているので開発ができずに昔のままの姿で残っている。
あたりは瀟洒な家々が立ち並ぶ、
何処にでもある新興住宅の風景だが、
このあたりが、
鬱蒼と巨木の生い茂る山の中だったということを知らせてくれる。
時計の針に小さな羽が生えて飛び去ってから、
街は、
少女一人になった。
少女は、
同じ軌跡をえがいて音もなく跳ね返ってくる
テニスボールを永遠に打ち返している。
割れたガラスに映るバスは無人のまま動かない。
駅へ戻ろうとするとすると、
今来た道が揺らぎ、
陽炎のようになって消えかかっていた。
真夏の正午は人を幻覚に誘う。
どこを歩いても工事中のビルや、
取り壊され更地になった場所に出会う。
近未来の風景が次々と生まれ、
時代を語るビルは次々と消えて行った。
スクラッチタイルを張り巡らした、
手動式のエレベータのあるビルのオーナーは、
どうやらこのビルを残すことを決意したようだ。
雑草が伸び放題になっていた公園が、
或る日突然フェンスで囲われ、
遊具が取り去られ更地になった。
やがて工事が始まり、
真新しい遊具が設置され、
ざらっとした砂のように見える舗装が施され、
土の無い公園に変わった。
雑草だらけの空き地で、
泥だらけになって遊んだ世代にとっては、
違和感を感じるけれど、
小さい時から、
舗装された地面がほとんどという世界に育った子供たちには、
土が無いということなど、
全く気にならないのだろう。
街が速度を上げて変わり始めている。
多くの、時代の匂いをまとったビルが、
街の記憶とともに消えていった。
2020年から始まる新しい記憶のために。
多くの商業施設もリニューアルに余念がない。
新しい空間が生まれている。
その空間は街の記憶として残るほど、
長い時間存在し続けるのだろうか。
目的もなく歩いていると、
いつのまにか町に歩かされているような気持ちになって、
路地から路地へと連れ回され、
思いもかけないような光景に出会う。
どうやら町は、
目的を持って歩き回られるのが嫌いなようだ。